マクガバンレポートとは、1977年に米国上院栄養・人間ニーズに関する特別委員会(Select Committee on Nutrition and Human Needs United States Senate)で取りまとめられました2つの報告書のことです。特別委員会の委員長が上院議員のジョージ・マクガバン(1922〜2012)でしたので通称「マクガバンレポート」と呼ばれるようになりました。
1977年1月14日の記者会見で『米国の食事目標(Dietary Goals for the United States first edition)が発表されました。
さらに、科学的な議論が加えられた『米国の食事目標(第2版)』が同年12月に発表されました。
この報告書の目的は、アメリカ人の食生活から引き起こされる健康問題が、重大な事態であるということを指摘することでした。
重大な事態とは下記のことを指します。
①毎年85万人ものアメリカ国民が、心臓疾患および血管系の疾患で死亡している。
②アメリカ政府はそれらの疾患に対して、毎年500億ドル以上もの費用負担をしている。
では初版および第2版がどのような内容だったのか、その概要は下記の一覧になります。
この報告書では、動物性脂肪およびコレステロール摂取量の減少が明記されていましたので、消費者運動の活動家からは支持率は高く、食品産業関係者、特に農業生産者からは反発を受けることとなりました。しかしアメリカのこれらの食品供給は、経済的な発展を第一とする合理的な農業政策からの転換が必要であることを訴えかけたのです。第2版では、「食料の生産および加工は、米国における第一の産業であり、医療は第三位である。栄養はこの二つの産業つなぐ《要》である」と主張されました。
また「食事目標」について、法律によって国民を導くのではなく、個人がそれぞれの食事について意思決定を行うことで自らの健康を保持し、病気にかかる危険率を少なくするための手段として栄養知識を提供するものであることが強調されました。
マクガバンレポートが提唱した要点は下記のようにまとめることができます。
①摂取エネルギーと消費エネルギーの均等を保つ
②炭水化物は複合炭水化物と植物繊維の摂取割合を向上させ、砂糖の摂取割合を低下させる
③脂肪、特に飽和脂肪酸の摂取割合を低下させること
④コレステロールの摂取量を減少させること
⑤塩分を制限すること
以上のようにこの報告書は、特に動物性脂肪を指す飽和脂肪酸の摂取率を低下させる、食生活における脱「欧米化」の必要性を提言したのです。
日本に関する記述
日本の食生活がマクガバンレポートにおいて賛美されたようなことが言われていますが、そのような記述は見られないようです。
一方で、日本の伝統的食生活から「欧米型」に変化した場合に発生しうる疾患についての記述があるようです。
初版には「肉類の消費量が多いアメリカ、スコットランド、カナダでは、結腸がんによる死亡率が高い。肉類の消費量が少ない日本、チリのような国々では結腸がんの罹患率が低い」とあります。
第2版にはさらに以下のような記述があるようです。
●アメリカに移住し、動物性脂肪と乳製品をほとんど含まない伝統的な日本の食事から西洋の食事に変化している日本人については、乳がんおよび結腸がんの罹患率が激増している。
●乳がんは女性におけるすべてのがんの中で、最大の死因であるが、その地理的分布は結腸がんと類似し、高脂肪食の消費量に世界的にも関連している。日本ではこの疾患は希少であるが、しかし、アメリカに移住した日本人の間では増大している。結腸がんの場合と同様に、コレステロールおよび脂肪摂取量が比較的に低いという食事を摂るプエルトリコ人の間においても希少である。
このように日本の食生活はアメリカ(欧米)の食生活と対照的なケースとして紹介されています。
さらにこの報告書では「PFC(P:タンパク質、F:脂質、C:炭水化物)熱量バランス」の目標が記されています。アメリカのPFC熱量バランスの目標は次の通りです。
P:12% F:27〜33% C55〜61%
なお、1978年当時の日本におけるPFC熱量バランスは、「P:12.9% F:23.9% C:63.2%」でアメリカの目標値にとても近いものでした。これが、日本の食事が礼賛されたというように、少しオーバーに伝わった原因かもしれません。